留学生を現場の業務で採用する
留学生が日本の大学を卒業後、単純労働系の現場の業務で採用することができる「特定活動(本邦大学卒業者)」についてご説明いたします。
特定活動(本邦大学卒業者)ビザについて
日本では30万人以上の留学生が学んでいます。中国、ベトナム、ネパール、韓国、台湾からの留学生が多いようです。多くの留学生は「資格外活動許可」を得て、飲食店、コンビニ、スーパーなどでアルバイトをしています。「資格外活動許可」は原則週28時間以内であれば、風俗業以外はアルバイトをする業種に制限がなく飲食店やコンビニ等で働くことができるからです。
アルバイトの留学生を卒業後、正社員として雇いたいと希望する日本企業の経営者は多く、また慣れた職場で仕事を続けたいと思っている留学生も多くいらっしゃいます。優秀で日本語ができ、まじめで仕事熱心な留学生であれば、誰しも採用したくなるものです。
しかし留学生が卒業後に日本で就職するために取得する「就労ビザ」には就労制限があるため、就職できる会社は限られていました。特に単純労働とみなされる現場の業務では留学生を採用することはできませんでした。
単純労働とは、飲食店のホール担当、調理師補助、清掃業務、工場でのライン作業、建設作業、警備業務、コンビニの商品陳列やレジ、ドライバーなどです。この制限が、企業が優秀な外国人を採用できない理由の一つとなっていました。
また日本の大学を卒業した留学生が日本での就職を希望する場合、学校で専攻した科目と就職先の職務内容に密接な関連性が求められるため、留学生の就職先も限られてしまいます。留学生の日本での就職は簡単ではなかったのです。
このような事態を解消し、能力が高い留学生の日本での就職支援を図るため、政府は法務省告示の一部改正を行い、留学生に幅広い業務での就職を認めることにしました。これは人手不足で困っていた経営者にとって朗報です。
この法務省告示の一部改正で2019年5月に認められた在留資格(ビザ)が「特定活動(本邦大学卒業者)」なのです。この改正で留学生が大学等を卒業後、幅広い業務に就くことが可能になりました。
「特定活動」とは入管法に定めた在留資格(ビザ)以外に「法務大臣が個々の外国人に対し特に指定する活動」として入管法の改正を行わずに定めることができる在留資格(ビザ)のことです。外国人の日本での活動が多様化し、すべてを類型化して入管法に定めるのは困難となっているため、類型化できない活動について「特定活動」を許可し日本での活動を認めることにしています。「特定活動(本邦大学卒業者)」も40種類以上ある「特定活動」の一つなのです。
インバウンド対策として外国人を雇いたくても、自社に「技術・人文知識・国際業務ビザ」に該当する業務がなく、外国人を雇うことができなかった企業が多くあったと思いますが、この「特定活動(本邦大学卒業者)」の新設で外国人採用の道が開かれることになったのです。
特定活動(本邦大学卒業者)の要件
法務省告示の改正では、日本の大学を卒業した留学生が、日本の企業等で、大学において修得した広い知識、応用的能力等のほか、留学生としての経験を通じて得た高い日本語能力を活用することを要件として、幅広い業務に従事する活動として「特定活動(本邦大学卒業者)」による入国・在留を認めるとしています。
つまり留学生について、①大学を卒業し、②日本語能力が高く、③大学の経験を活かし、日本語を用いた円滑な意思疎通を要する業務に従事する、の要件を満たせば、業務の制限が緩やかになり幅広い業務で留学生を採用することができるようになるのです。詳しい要件は次のとおりです。
■対象となる留学生
まず「特定活動(本邦大学卒業者)」の対象者です。対象者は次のような留学生になります。
1.本邦の大学を卒業または大学院の課程を修了し学位を授与された方 | |
日本の4年制大学の卒業および大学院の修了に限られます。 「短期大学」および「専修学校」の卒業、ならびに「外国の大学」の卒業および「外国の大学院」の修了は対象になりません。
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2.高い日本語能力を有する方 | |
(1)「日本語能力試験」N1または「BJTビジネス日本語能力テスト」で480点以上を有する方
(2)その他大学または大学院において「日本語」を専攻して、大学を卒業した方については(1)を満たすものとして取り扱われます。 ※外国の大学・大学院において日本語を専攻した方についても、(1)を満たすものとして取り扱われますが、この場合であっても併せて日本の大学・大学院を卒業・修了している必要があります。 ※「「日本語」を専攻した」とは、日本語に係る学問(日本語学、日本語教育学等)に係る学部・学科、研究科等に在籍し、当該学問を専門的に履修したことを意味します。 |
なお大学を卒業し新卒で採用する外国人(現に「留学ビザ」で日本に在留している外国人)以外にも、上記要件を満たせば、日本の大学を卒業後に帰国した外国人や、他のビザ(「技術・人文知識・国際業務ビザ」、「企業内転勤ビザ」、「家族滞在ビザ」等)を持って日本に在留する外国人も対象となります。
つまり日本の大学を卒業し日本語能力を証明できる外国人であれば、帰国した方を再度日本に呼び寄せたり、他の会社に就職した方の転職を受け入れることも可能になるのです。
■日本語を用いた円滑な意思疎通を要する業務であること
「日本語を用いた円滑な意思疎通を要する業務」とは、次のとおりです。
単に雇用主等からの作業指示を理解し、自らの作業を行うだけの受動的な業務では足りず、いわゆる「翻訳・通訳」の要素のある業務や、自ら第三者へ働きかける際に必要となる日本語能力が求められ、他者との双方向のコミュニケーションを要する業務であることを意味します。
つまり清掃業務や厨房内での皿洗いのような、指示された業務をこなすだけの仕事だけでは認められず、通訳として接客業務に従事する場合や、製造業で母国語で技能実習生等に通訳し指導する等、日本語能力を活かしたコミュニケーションを要する業務であることが求められます。
■大学または大学院において修得した広い知識および応用的能力等を活用するものと認められること
従事しようとする業務内容に「技術・人文知識・国際業務ビザ」の対象となる学術上の素養等を背景とする一定水準以上の業務が含まれていることが必要です。
雇用する外国人に対して、従来の「技術・人文知識・国際業務ビザ」のように、大学等で専攻した科目と職務内容に密接な関連性まで求められません。
しかし「特定活動(本邦大学卒業者)」では、一般的に大学において修得する知識が必要となるような業務(商品企画、技術開発、営業、管理業務、企画業務(広報)、教育等)が含まれているか、今後そのような業務に従事することが見込まれなければなりません。
■日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること
外国人を雇う場合の基本的な事項ですが、雇った外国人の報酬は日本人が従事する場合に受ける報酬と同額以上であることが必要になります。
外国人に支払われる報酬額については、地域や個々の企業の賃金体系を基礎にして同種の業務に従事する日本人と同等額以上であるか、他の企業の同種の業務に従事する者の賃金を参考にして日本人と同等額以上であるかが判断されます。
また昇給についても日本人大卒者・院卒者の賃金が参考にされます。
元留学生が母国等において就職し実務経験を積んでいる場合、その経験に応じた報酬が支払われることになっているか等についても確認されます。
■常勤であること
雇用する外国人は、企業内で常勤の職員として業務を行う必要がありフルタイムの職員に限られます。したがって短時間のパートタイムやアルバイトは対象になりません。
特定活動(本邦大学卒業者)で認められる業務の具体例
次のような業務が、「特定活動(本邦大学卒業者)」で認められます。具体例を見ると、「特定活動(本邦大学卒業者)」で認められる業務がイメージしやすく、外国人採用の可否判断の参考になると思います。
業務 | 留意点 |
飲食店に採用され、店舗管理業務や通訳を兼ねた接客業務を行うもの。 | 日本人に対する接客を行うことも可能です。ただし厨房での皿洗いや清掃にのみ従事することは認められません。 |
工場のラインにおいて、日本人従業員から受けた作業指示を技能実習生や他の外国人従業員に対し外国語で伝達・指導しつつ自らもラインに入って業務を行うもの。 | ラインで指示された作業にのみ従事することは認められません。 |
小売店において、仕入れ、商品企画や、通訳を兼ねた接客販売業務を行うもの。 | 日本人に対する接客販売業務を行うことも可能です。ただし商品の陳列や店舗の清掃にのみ従事することは認められません。 |
ホテルや旅館において、翻訳業務を兼ねた外国語によるホームページの開設、更新作業等の広報業務を行うものや、外国人客への通訳(案内)を兼ねたベルスタッフやドアマンとして接客を行うもの。 | 日本人に対する接客を行うことも可能です。ただし客室の清掃にのみ従事することは認められません。 |
タクシー会社において、観光客(集客)のための企画・立案や自ら通訳を兼ねた観光案内を行うタクシードライバーとして活動するもの。 | 通常のタクシードライバーとして乗務することも可能です。ただし車両の整備や清掃のみに従事することは認められません。 |
介護施設において、外国人従業員や技能実習生への指導を行いながら、日本語を用いて介護業務に従事するもの。 | 施設内の清掃や衣服の洗濯のみに従事することは認められません。 |
食品製造会社において、他の従業員との間で日本語を用いたコミュニケーションを取りながら商品の企画・開発を行いつつ、自らも商品製造ラインに入って作業を行うもの。 | 単に商品製造ラインに入り,日本語による作業指示を受け、指示された作業にのみ従事することは認められません。 |
転職、企業内の異動等
「特定活動(本邦大学卒業者)」が認められると、次のような「指定書」がパスポートに貼付されます。「指定書」を見ますとお分りのように、機関名(企業名)と本店所在地が指定されることになります。
出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の規定に基づき同法別表第一の五の表の下欄に掲げる活動を定める件(平成二年法務省告示第百三十一号)の別表第十一に掲げる要件のいずれにも該当する者が、下記の機関との契約に基づいて、当該機関の常勤の職員として行う当該機関の業務に従事する活動(日本語を用いた円滑な意思疎通を要する業務に従事するものを含み、風俗営業活動(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和二十三年法律第百二十二号)第二条第一項に規定する風俗営業、同条第六項に規定する店舗型性風俗特殊営業若しくは同条第十一項に規定する特定遊興飲食店営業が営まれている営業所において行うもの又は同条第七項に規定する無店舗型性風俗特殊営業、同条第八項に規定する映像送信型性風俗特殊営業、同条第九項に規定する店舗型電話異性紹介営業若しくは同条第十項に規定する無店舗型電話異性紹介営業に従事するものをいう。)及び法律上資格を有する者が行うこととされている業務に従事するものを除く。) |
■企業内での異動、転職
雇っていたい外国人が転職をした場合、「指定書」に記載の機関名(会社名)が変更になり、新たに転職後の機関名(企業名)を指定する必要があるため、ビザの変更(在留資格変更許可申請)が必要になります。
一方で、同一企業(法人番号が同一の企業)内の異動や配置換え等については、ビザの変更(在留資格変更許可申請)は不要です。
■派遣社員は対象外
外国人が派遣会社に雇われ派遣先で業務を行うことはできません。
「特定活動(本邦大学卒業者)」は、指定された企業での業務に従事する場合のみ認められるものだからです。
■雇用管理
外国人を雇用した企業が適切に雇用管理を行っている必要がありますので、社会保険の加入状況等についても必要に応じて確認が求められます。
特定活動(本邦大学卒業者の配偶者等)
この「特定活動(本邦大学卒業者)」の扶養を受ける配偶者やお子さまは、「特定活動(本邦大学卒業者の配偶者等)」を取得すれば日本での日常的な活動が認められます。
つまり「特定活動(本邦大学卒業者)」で日本に在留する外国人は、「技能実習」や「特定技能(1号)」と違い、配偶者やお子さまの日本への帯同も許可されるということです。